茹だる様な夏の暑さは、ここインドの地でも変わることは無かった。さきほどまでホテルの部屋でくつろいでいたものの、一向に冷めやらぬ暑さに耐えかね、ホテルの裏庭へとやって来たアンナはそこでよく見知った顔を目にした。 「…そんなところで何やってるの?」 「アンナちゃん」 呼ばれたサチが、ゴムホースを片手に振り返る。見れば、どうやらコマを洗ってやっているようだ。 「こう暑いと、水浴びでもしないとへばっちゃうみたいで」 言いながら、サチはコマの体に水をかけてやる。気持ち良さそうに身を震わすコマから飛んでくる滴を避けながら「もうちょっとだけじっとして」と、その肩を手で押さえながらサチが言う。珍しく後ろで一つに結んだ髪の間から覗く項からは、じわりと汗が滲んでいる様子が見て取れた。 そこでアンナはふと一つ溜息を吐くと、その場から踵を返す。しばらくして戻ってきた彼女は、その手に二つのガラスで出来た瓶を携えていた。 「ハイ」 そう言って、内一つの瓶の方をサチに向かって差し出す。「え?」 「ちゃんと水分取らないと、あなたの方が先にへばっちゃうわよ」 近くの屋台で買って来たらしいガラス瓶はよく冷やされており、表面に汗をかいたように水滴をまとっていた。 「わあ、ありがとう」 嬉しそうに受け取るサチを見ながら、アンナも自分の分の蓋を開けて中の水分を勢い良く飲み干す。 「はあ〜、それにしても暑いわねー」 「暑いね〜」 青空と白い入道雲が蜃気楼になって霞む様を眺めながら、たまらず呟くアンナに隣でサチが同じく頷き返すと、応じるようにコマが一声「ワン」と鳴いた。 |
Dog Day Afternoon
(サチとアンナ/20110821)