誰もいなくなった放課後。昼間から燦燦と太陽が照り続けたおかげで蒸し暑さの漂いきった校庭の片隅に、彼女はたった一人その場で蹲っていた。 「何やってんだ?」 ホロホロが、その後ろから丸まった背中に向かい声をかける。 すると、ダム子は一旦その手を止めてくるりとこちらに振り返った。 彼女は、どうやら蜻蛉の死骸を土に埋めているところだったようだ。 「一匹だけ、ぽつんとしてたから」 羽を失い、打ち捨てられたように息絶えた光景がホロホロの目にも浮かぶ。見れば、その掌や爪の間にも泥がついていた。 「…手、汚れるぞ」 「平気だよ」 ダム子はホロホロに微笑んでみせる。 それに、土に触ることは慣れているから。 土建屋なだけに。と冗談めかして笑ってさえみせた。 一日中炎天下に晒された地面は、まるで焼け爛れたように熱くなっている。 ねえ、知ってた?砂の中に手を入れるとものすごくあたたかいんだよ。ダム子がそう言ってみる。 ホロホロは、ただ黙ってそんな彼女の話を聞いていた。視界に映るダム子の姿が、この暑さのせいでまるで蜃気楼のように歪んでしまっている。そんな中で、彼女の白すぎる肌にやたらと不釣合いなその土の色だけが、くっきりと炙り出されたみたいに見えた。 やがて、ホロホロがそこから踵を返す。 「――来いよ」 「?」 肩越しにそう呟いて、校舎の裏を指差した。 「手、洗わねえといけねーだろ」 それだけ言って、一足先に歩いていく。ダム子は、少し遅れてそのあとを追いかけた。 「…ありがとう」 夏の終わりに転校してきて以来、それは初めてホロホロの方から彼女に声を掛けてきてくれた出来事だった。 |
ether
(ホロホロとダム子/20090814)