夜の川べりに、彼らは並んで佇んでいた。 傍の草叢からは時折虫の音色が響いている。このくらいの時刻になると、このごろは少しずつ涼しさも感じることが増えてきた。夏の終わりがそろそろ近づいているのかもしれない。 やがてメイデンが、手にした灯をそっと岸辺から離す。明かりはみるみるうちに川下の方――恐らくは海まで繋がっているのだろう――へと流されていった。 「お友だちのたまおさんに教わったんです」 日本では、今くらいの時期になるとこういう行事があると。彼女はどうやらお盆の送り火の真似事をしていたらしい。蓮もその話は聞いたことがあったので、すぐに察することが出来た。 二人の視線の先をゆく灯は、未だ薄暗い夜の闇の中で仄かに煌々と瞬いている。ゆらゆらと揺らめき続ける炎は、どこかメイデンにはかの男の存在を思い起こさせたのだった。 そんなメイデンの横顔を、蓮がそっと見守るようにその隣へ静かに寄り添う。 彼女は今、はたして誰の魂をあの世へと見送っているのだろう。 その胸に去来するのは、過去幾度となく己の手で屠ってきたであろう数多の命か。 殺めてしまったその事実を今更後悔したところで、それはもう二度と元には戻らない。それは蓮自身が身を持って思い知ったことだ。 あのころは、罪の意識に蝕まれたが為互いにそれぞれ一度は自らの命も落としかけたことすらあった。 けれども。 蓮は、かつて友人から言われた言葉を思い出す。 「…大丈夫だ」 だしぬけに蓮が口にしたので、メイデンは僅かに驚いた様子で彼の方に振り返った。 蓮は、彼にしては随分と優しい表情を浮かべている。思えば、たしかにあの男の言ったことは正しかった。 彼女という存在を見つけ、家族を得た今の自分だからこそ。 確信を込めて、彼はメイデンに告げる。 「お前は一人じゃない」 終わることのない憎しみや悲しみの連鎖も、繰り返される悪夢も。それらがまた何度襲ってこようとも、もう自分たちを囚えてしまうことはない。 今になって、あの懐かしいフレーズが妙に蓮の耳の奥で心地良く響いていた。 「…そうですね」 どこかほっと安心したように頷き返したメイデンもまた。その顔には、ようやくいつもの穏やかな微笑みが戻っていた。 |
ether
(蓮とメイデン/20090814)