まるで蝶々か何かが踊り舞うように、先程から花の視界の端を何度も掠める。三つ編みに結われたその、金糸の房。 ちらり、ちらりと。 夏の日差しに当てられ、時折きらりと輝いてみえたりもするのが尚始末が悪い。たまらず、一瞬目を細めてしまった。 「なに?」 そこで、ようやく花がこちらを何ともいえない表情で凝視しているのに気付いた彼女が尋ねても。 「べっ…べつに」 なんでもない。 不貞腐れたように呟いて、慌ててそっぽを向く。まさか、素直に見惚れていただなどと言えるものか。 「ヘンなヤツ」 アンナはやや呆れた様子で、そんな花から視線を外す。そのはずみに、また目の前をあの結び目がふわっと漂う。 けれどもこれは、気にするなという方が到底無理な話だろう。あの見事なまでの金色は。さすがは本場といったところか。ここまで綺麗な本物は生まれてこのかた見たことがなかった。 花は思わず憮然としてしまう。別に不機嫌になるような理由なんてひとつも見当たらないのに、彼女のある種美しすぎる髪が眼前でちらつくたび、どうしても落ち着かない気持ちに苛まれてしまうのだった。 けれど、かつて花からそのことを指摘された際、彼女は 「そういうあんただって、似たような色してんじゃない」 人のこと言えないわよ、と切り返した。そこで思わず 「オイラのは違うっつの」 こりゃ、亜麻色っつーんだ。 母親譲りの。花は、自身を指差して訂正しておいた。 「ふーん」 アンナは興味が無さそうにそのツッコミを一旦聞き流す。が、ふと思い直したのかおもむろに花の方へと近づいてゆくと。 「…でも、あんたのもキレイね」 これはこれで、悪くない。 滅多にみせない、満足げな笑みまで浮かべてそんなことを言ってくるので。 動揺を隠し切れない花をよそに、アンナは余裕で髪を翻す。そして相変わらずそれは、やはりやたらときらきら煌めいていて眩しかった。 |
ether
(花とアンナ/20090814)