「暑〜」
しばらく炎天下が続いていた旅の途中。
木陰でしばしの休息をとっていた際、ついにたまらずサチがそうぼやいた。
「そう?」
「そりゃあ、センジュくんたちは仏像だしね…」
汗だくとは無縁の爽やかな表情で呑気に尋ねてくる彼に、サチはちょっぴり羨ましそうな声を上げる。あーあ、と仕方のないことであるとはわかっていながら。
「ジゾウくんとか、もしかして触ったら冷たくて気持ちいいかしら…」
石だけに。と、この暑さで相当参っているのか、そんな想像までしてしまう。
今の発言も、恐らく当人がこの場にいれば突っ込まれただろうが、生憎とここには彼ら二人の姿しかない。それを良いことに、「今度試してみようかな…」などと冗談なのかいつしかそんなことまで口にしだしたサチを、センジュがちょっと不思議そうな目で見つめている。
「…」
やがて、彼はそんな彼女の姿に何を思ったか。
ぎゅっ。
唐突に、そんな音が響いてしまったかと思うほどの強さで、その手を握り締めた。
「!」
驚いたのはサチだ。突然横から伸びて来た手に、慌ててそちらを振り返っても彼は相変わらずけろっとした様子で、その上彼女に向かいにこやかに笑いかけてきた。
「なっ、何急に…!」
「僕は?」
「は?」
そんなサチの混乱などどこ吹く風。センジュはそのまま構わず問いかけてきた。
「ちょっとは冷たくない?」
石じゃなくて木だけど。
彼にしては珍しく、自分でも一応そんなツッコミも付け加えて。
「…」
一方のサチは、もはや言葉も出ない。
彼の言うことと行動がようやく頭の中で繋がっても、否、繋がってしまったが故に尚更。これまでにも幾度となくその天然ぶりに振り回されてきたが、いつまでたっても慣れることなど叶うはずもなく。
まったく、これでは涼しくなるどころか…
(余計に熱くなったわよ!)
のぼせそうなくらい頬を真っ赤に染めたサチは、それでも口には出せずに内心そう叫ぶ。傍らのセンジュからは、なんだか懐かしい木の匂いがした。


ether
(センジュとサチ/20090814)



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