「大和くん」 今日、学校の廊下で憧れの人から願ってもない声を掛けられた。 「今夜のお祭り、一緒に行かない?」 狭山からのまさかのそんなお誘い。当然のことながら、大和は二つ返事で同意した。なんて幸先の良い夏の始まり。これが興奮せずになどいられるだろうか。 まさか、ついに今度こそ告白のチャンス到来か…!? ――が。彼はふと、狭山が話していた内容をよくよく思い出してみる。 「みんなで浴衣着ていくから。楽しみにしてて」 そう、彼女は言った。『みんなで』と。 それは、とりもなおさず他の友人たちにも声を掛けたという証。脳裏には、彼の親友であるメガネの少年や、狭山と特に仲の良い三人の女子生徒たちの顔が次々と浮かんでくる。 「…だよなあ」 がっくり。まさしくそんな表現が当てはまりそうな勢いで、大和は頭を垂れた。さすがに二人きりなワケないか。 残念なような、でもどこかでちょっとだけほっとしたような。自分でも気がつかないうちに、そんな複雑な想いを胸に抱えながら。それでも、大和はすぐさまそこから立ち直って、一人あれこれと今夜のイベントに思いを馳せる。せめて、一緒に金魚すくいぐらいは出来たらいいなあとか夢みつつ。 ――そして、一方の狭山は。 相変わらず一人で勝手に一喜一憂している大和をこっそり遠目で確認し、思わず溜息を吐く。 「…もう高校生になったのに」 一体、いつまで待たせるつもりなんだろう。もうかれこれ小学生の頃から、足がけ数年。こちらが全く気づいていない素振りでいるにしても、ほんとにこれっぽっちも伝わってないと本気で思ってるんだろうか。 (けどま、しょうがないか) それが、大和という人物なのはこれまでの付き合いで自分もよく知っている。それに、彼のそういうところはおもしろくもあるので、敢えてこちらから指摘してやることもないだろう。何、焦る必要もない。 この次は誕生日辺りかなあ、などと。 もちろん、狭山がそんなことを考えているなど大和は知る由もないのだった。 |
ether
(狭山と大和/20090814)