自分の背よりずっと大きなフキの葉をかきわけて、ようやく見つけたその背中にダム子は声を掛けた。
「ホロホロ」
彼女の声に、ホロホロがゆっくりと肩越しに振り返る。返事は返さなかった。少しだけ拗ねたような顔つきで、けれども彼女がここに足を踏み入れることを拒絶するような態度は見せなかった。ダム子はそのまま、ホロホロの隣に腰を下ろす。
「最近、いつも先に帰っちゃうね」
前は、学校が終わったら二人一緒に此処を訪れていた。けれども、少し前からホロホロはダム子を置いて、さっさと一人で帰ってしまうことの方が多くなっていた。避けられているのかと思ったが、こうしてフキ畑まで来てみれば、彼はちゃんとそこにいる。そして、ダム子が傍に近づいても殆ど何も話さない。ちょっと前までは、むしろ煩いくらいに一緒になってはしゃいで遊んでいたのに。今は難しい顔をして、視線を合わせぬまま何かを考え込んでいる。ダム子がその顔を覗き込んでみても、ただ口を真一文字に結んだまま。でもそれは、本当は何か言いたいのを必死で我慢しているようにも見えた。
だから、ダム子もそれ以上はもう何も言わずに、ただ黙ってその横に座り続けた。こうして待っていれば、きっといつかホロホロの方から話してくれる。そう信じて。
そんなダム子を、その頃のホロホロは受け入れることも、拒むこともどちらも出来なかった。たぶん、こんなことはそう長くは続けられないだろう。恐らくはそう遠くない未来、いや、下手をすればもう明日にでも、二人の歩いていく道はばらばらに離れてしまうかもしれない。
でも、今はまだ、こうして隣に居ることは出来る。格好悪くて絶対に話せないけれど、口を閉ざしてさえいれば傍にはいられる。ダム子はそれを知ってか知らずか、決してその先を無理に促そうとはしない。そんな彼女の優しさに甘えている自分が情けなくて、いずれ訪れる別れを今だけはもう少し引き伸ばしたくて、必死に足掻いている。どこかでそれが無駄な抵抗なのだとはわかっていても。
いつもは清々しいはずの澄み切った青空の下、ホロホロは生まれて初めて、それがいっそ憎らしいとさえ思ってしまった。


群青
(ホロホロとダム子/20120108)



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