「君は、父上のことが嫌いなのか?」
「はあ?」
唐突に葉羽に尋ねられて、花は呆気にとられたような声を上げた。なんなんだよ急に、と訝しげに問い返す花に、葉羽は言う。 「いや…以前に君は『麻倉葉は自分が倒す』と言っていただろう?」
そういやそんなこと言ったかな、と花は興味なさそうに呟く。
「つまりそれは、親と子でありながら麻倉葉に対して自らの手で葬り去りたいほどの憎しみを抱いているという意味なのかい?」
葉羽のその相変わらずな厨二臭漂う台詞にゲンナリしながら、花は面倒なことになったなと溜息を吐く。さて、どうしたものか。迷ったのちに、花はおもむろにあさっての方へ向けていた目線を葉羽へ移しながら
「…そういうお前は、どうなんだよ」
「え?」
「お前は、自分の父親のことどう思ってんだよ」
花は話を逸らすことにした。だが、葉羽はそんな花の思惑通り、すっかり今の花の問いに没頭してしまった様子だ。ちょろい…と花が胸を撫で下ろしつつほくそ笑んでいる一方、葉羽は真剣に考え込んでいた。
やがて、静かに口を開く。
「…正直なところ、上手く言葉で説明出来ない」
自分にとって、父である葉虚は好きとか嫌いとか、そんな生ぬるい言葉で言い表せるような間柄ではなかった。姉である路菓と共に、あの狭い世界の中で彼らにとっての父とその言葉は絶対であり、その為に今日まで生きてきたといっても過言ではないのだ。
花は、その葉羽のあまりに真剣に思い悩んでいる様子を見てさすがにまずいと思ったのか
「いや…何もそこまでクソ真面目に答えなくていいけどよ」
あくまでも軽い口調で口を挟む。まったく、ほんと面倒くせえヤツ。
「つーか、ふつうそんなもんだろ父親に対してなんて」
「へ?」
ぽかんとする葉羽に、花は鬱陶しげに吐き出す。
「だから。好きだの嫌いだの、憎んでるだのなんだの。そういう言葉で収まりきれるような存在じゃねーだろあいつら。っとに厄介にもほどがあるぜ…」
心底恨みがましい様子の花を見て、葉羽はまたもやしばし考えこんだのちに
「…まだちょっと、僕にはよくわからないけど…」
そう前置きしたのちに、ただこれだけは言える、と思い呟く。
「たぶんそれって、『ふつう』ではないんじゃないかな」
「あ?」
「花君って、ちょっと変わってるよね」
「はああ!?」
冷静にツッコミ返されて、花はたまらず心の底から叫ぶ。「お前にだけは言われたくねーよ!」


花泥棒
(花と葉羽/20130106)



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