家に帰るなり、葉書が届いてるわよとたまおに告げられる。へえ、ちょっと久しぶりだな…と思いながら花が部屋に入ると、机の上にちょっと薄汚れた一枚の葉書が置かれていた。手にとって見れば、そこには見慣れた字で書かれた自分の名前。決して上手くはないが、まあなんというか、独特の味だけはある。
「つーか、今時ハガキだもんなあ…おまけに手書きだし」
それこそ、メールの方が便利だし時間もかからない。とはいえ、彼らの境遇を考えると実のところあまり変わりはないのかもしれないと思い直す。何せ、手紙どころかメールすらまともにやりとりするのも難しいような紛争地帯を渡り歩く日々だ。世界を股にかけるといえば聞こえはいいものの、そこは常に危険と隣り合わせ。こんな風に、その合間を縫って近況報告のような簡単な一文だけを添えた葉書が時折送られてくるが、それすらもなかなか困難なことなのだろう。ここ最近は滅多に目にすることもなかったので、久しぶりに目にしたその名に花はちょっとだけ胸を撫で下ろした。もはや近況報告っつーよりも生存報告だな…。そんなことを思いながら、何気なく葉書を裏返すと、そこには一輪の花が貼り付けられていた。みたところ、どうやら本物の花のようだ。とはいえ別段そんな大層な花ではない。どこの道端にでも咲いていそうな、ありふれた小さな花でしかない。
「つーか押し花って…」
女子かよおい、と思わずツッコミを入れる。その花の隣には、こんな言葉が書かれていた。
『世界中色んなところを廻ったけど、どんな場所にでも花は咲くんだな』
たったそれだけ。他には何も書かれていない簡素な葉書を眺めながら、花はしょうがねえなあと溜息を吐く。ふつう、もっと他に言うべきことがあるだろうに。
けどまあ、それもあいつらしいといえばそれまでだ。とりあえず、今もちゃんと生きていることが分かっただけでもよしとしよう。
「オレの知らないところで、勝手に死ぬんじゃねーぞ」
その手にした葉書に向かって呟く。あんたを倒すのは、このオレなんだからな。


花泥棒
(花と葉/20130106)



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