結局のところ、家に居るのが一番だ。落ち着くし、わずらわしい喧騒に揉まれることもなく、誰からも邪魔されず好きなように過ごせる。いつもながら、旅なんかに出る度につくづくそう実感するというのに、人はどうしてわざわざ手間暇かけてまで、ここではない何処か遠くまで行こうとするんだろう。そう、ちょうど今の自分みたいに。
花は重い荷物を背負いながら、心からそう思った。もはや自分でも、一体何故今こうしているのかがさっぱり分からない。ただ、それでも少年は外の世界へと飛び出さないわけにはいかなかったのだ。
決して彼らのあとを追うつもりなどさらさらなかったが、結果として訪れる先々でその名を耳にしないことなど殆どなかった。その都度、えもいわれぬ複雑な想いに苛まれることにも最近では随分と慣れ始めていた。仕方ない。たとえどうあがいたところで、自分が彼らの息子であることは変えられないのだから。
…などと素直に受け容れられたら苦労もしないが、その点に関してはもはや諦めるしかない。反抗期上等。どうせ逆らうのならば、とことん逆らい尽くしてやる。此処まで来たらもはや意地も手伝い、花は改めてそう決意した。
とはいえ、さすがにもうそろそろ故郷が恋しくなってくる頃だ。年を経るごとに旅立つ距離も時間も長くなっていたが、いつも最後はやはり早く帰りたいなあという想いが募った結果、どれだけ苦労して辿り着いた場所ですらあっさりと引き返してしまう。
そこで、花はふと思い出した。
旅というのは、帰る場所があるからこそ出れるものだ。
出たきりでどこへも戻らないのではそれはもはや失踪と同じだと誰かが口にしていたのを、今になってたしかにそうだなと実感する。もちろん、ちゃんと帰る場所のある自分もまた、だからこそ何も気にすることなくどこまでも行けるのだと。そしてきっと、彼らもそれをよく知っていたのだ。
そう分かっただけでも、わざわざこうして旅に出た甲斐はあったかもしれない。
といったところで、今回はぼちぼち頃合かとばかりに花はようやく踵を返す。じゃあと別れを告げながら、けれどもどうせ未だ交わることのない道がいつか繋がるその日までは、この瞬間を再び幾度となく繰り返すのだろうと内心では分かっていたので、最後に一言
「またな」と付け加えておいた。


放浪カモメはどこまでも
(花一人旅/20140112)



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