今日は彼女が故郷へ帰る日だ。恐らく、この次に二人が会える機会はずっと先のことになるだろう。日本とフランスはあまりにも遠すぎる。
たまおにとって、メイデンは初めて出来た年の近い女の子の友達だった(そしてそれはメイデンにとっても同じだった)せっかく出来た友達と離れなければならないのはとても寂しかったけれど、それは仕方のないことだ。たまおにはここで彼女のやるべきことがあり、そしてメイデンにはメイデンの成すべきことがある。
メイデンが旅立つ前日の夜、たまおは彼女に何と言って別れを告げるべきかを考えた。けれども、言葉ではうまく伝えられない気がした。だから、たまおはメイデンに手紙を書いた。自分は喋るのが昔から苦手だった。今でこそ大分慣れたけれども、以前はスケッチブックに書かれた文字を介してでないと、自分の意思を伝えることもままならなかったくらいだ。
でも、そんなたまおも、誰かに宛ててこんな長い手紙を書くのはこれが初めてだった。それも、自分の気持ちを誰かに伝える為に。慣れない作業に手間取りつつも、何度も書き直しながら、そこでたまおはふと、これじゃまるで恋文のようだ、と思った。もちろん、相手はたまおにとっては友達のメイデンなので、正確な意味ではもちろん違うけれど。ただ、思わずそんなことを考えてしまった自分に、たまおはちょっとだけ笑った。
そうして何とか書き上げた手紙を、たまおは別れの瞬間にメイデンに手渡した。やはり、手紙にしたのは正解だった。たまおの予想した通り、いざそのときを迎えると上手く言葉が出てこなかったのだ。ただ、「お元気で」と、「いつか、また…」という、そんなありきたりな台詞しか告げることはかなわなかった。メイデンは、その手紙にとても驚き、それからものすごく喜んでくれた。そして何度もお礼を言った。
メイデンは去り際に、国に帰ったら自分からも必ず手紙を出す、と告げた。その背に向かい、たまおもまたしっかりと頷き返した。


また手紙出すよ
(たまおとメイデン/20111023)



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