「あれ?風丸先輩てばどうしたんですかソレ」 その日、朝偶然登校途中に風丸の姿を見つけた宮坂だったが、いつもと違うその姿に一瞬目を丸くしてしまう。それというのも、彼のトレードマークとも言えるあのポニーテールではなく、風丸は珍しく髪を下ろしていたからだ。 「ああ…今朝ちょっと寝坊してな、慌てててゴム持ってくるの忘れた」と風丸が説明する。へえ、と漏らしながら宮坂は改めてそんな風丸を見やる。髪を下ろした姿もなかなか様になってはいるが、いつも目で追っているあのポニーテールが無いのはやはり不思議な気がした。 「でもソレ、今はいいですけど部活中とかどうするんですか?下ろしたままじゃ大分うっとおしいと思いますけど」 「ああ…まあな。ま、仕方ないさ。今日一日くらいなんとかなるだろ」 宮坂の指摘に、風丸はそう言って肩をすくめながら苦笑した。宮坂はそんな風丸を見ながらしばらく考え込んだのちに、やがてはっと思いついたのか突然手にしたカバンの中からおもむろにそれを取り出した。 「じゃ、よければコレ使って下さい」 宮坂が手にしていたのは、水玉の柄のシュシュだった。 「お前…何でそんなの持ってるんだ」 「えーと、たしかCD買ったらオマケで付いてきて…使い道ないんでカバンに入れたままだったんですけど」 しかし、宮坂の申し出にも風丸は眉をひそめたまま「いや、せっかくだけど…」と言って首を横に振る。 「えー、何でですか?だってサッカーするんなら束ねなきゃ邪魔になるでしょう、その髪」 「そりゃそうだけど…だからって水玉はないだろ水玉は」 でもきっと似合いますよ、と返す宮坂に「そういう問題じゃないだろ…」と風丸はツッコミを返す。 けれども結局、宮坂は半ば無理矢理風丸にその水玉のシュシュを押し付けた。「絶対に似合いますから」と念を押して。風丸は「いやだから別に嬉しくないし…」と尚も零してはいたが、仕方なく一応受け取っておいた。 そしてなんだかんだで、一旦部活を始めてみればやはり髪を下ろしたままのプレイが相当やりづらかったのか、最後には恥を捨ててその水玉のシュシュで髪を束ねていた。「…ああ、やっぱり似合ってる」 案の定、チームメイトたちから茶化されている風丸の姿に、宮坂は呟く。いつものあのポニーテールが、風に揺れているのを見つめながら。 |
ポニーテールとシュシュ
(風丸と宮坂/20110921)