最近、ヒロトは旅先から帰ってくると決まって晴矢に石をお土産として手渡してくれる。
石といっても別に大したものじゃない。たぶんどこの道端にでも転がっていそうな、何の変哲もないようなただの石ころだ。ただ、それはいつも決まって赤い色を帯びた石だった。
一体なんでいつも赤い石なんだ?と晴矢が尋ねても、ヒロトはただ「オレがあげたいから」としか答えなかった。
別に、受け取ることを断ることだって出来たし、恐らくヒロトはそれを受け入れただろう。でもなんとなく言い出せなくて、結局毎回貰ってしまう。おかげで今では、随分沢山の石が晴矢の部屋の片隅に積み上がっている。
一度それを見つけたヒロトは「律儀にとっておいてくれなくても、もし邪魔なら適当に捨ててくれてもいいんだよ?」と言ったが、晴矢は「一応、せっかくもらったもんをそう易々と捨てちまうのも悪いだろ」と答えた。それに、ヒロトは敢えて口には出さないけれど、恐らくこの石だって毎回それなりの時間をかけて探し当てたものだろう。何せ、いくらその辺に転がっていそうな石といえども、そう毎度都合よく赤い色をした石ばかりが転がっているわけはない。
けれども、ヒロトは「そうでもないよ」と言う。
「オレには、赤い石ならすぐ探し当てられるから」
「そうなのか?」
なんでだ?と晴矢が当然のように頭に浮かんだ疑問を口にする。すると、
「なんでだと思う?」
と逆に問い返されてしまった。
「はあ?わかるわけねーだろそんなもん」
「あはは、そうだよね」
自分から聞いておきながら、ヒロトはそうしてあっさりと引き下がる。なんなんだこいつは…。 「けどほんと、案外簡単に見つかるもんだよ?あっ、そうだ。もしよかったら今度晴矢も一緒に探してみようよ」
「あー?いやだよめんどくせえ。そんなことよりサッカーしようぜヒロト」
訳の分からないヒロトとの会話に飽きた晴矢は、そう提案するなりさっさと一人でグラウンドへ向かっていってしまう。
その後ろ姿を見送りながら、ヒロトは思わず微笑む。ああいうところが晴矢の良いところであり、好きなところだけれど。
たぶん一生、晴矢にはどうしてヒロトが毎回自分に赤い石を渡すのか気付かないんだろうな。 さっき、晴矢に話したのは嘘ではない。ヒロトには分かるのだ。たとえ他によく似た石とどれだけ交じっていようとも、ちゃんと『それ』を見つけられる。俺には。
「…本音をいえば、いつかは石じゃなくってホンモノの星を見つけたいんだけどね」
けれどまあ、それは焦ってはいないから別に構わない。石ならばともかく、いくらなんでも星はそうそうそこら辺に落ちているようなものではないだろう。だが、だからこそ探し甲斐もある。そう簡単に見つかってしまってはつまらない。
それに何より、一番見つけたかったものはもう、自分は既に見つけてしまっている。
「ねえ」
晴矢、といつしか姿の見えなくなってしまった相手へ向かい、そっと呟いた。


俺の赤い星
(ヒロトと晴矢/20130115)



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