彼女の兄であるルドセブは、ここ森羅学園ではそれなりに有名であった。もっとも、それはセイラーム自身も変わりは無く、彼らは美男美女兄妹として学内では今やかなりの人気を博している。まんの子としては、自分の方が多少身長が低いことさえ除けば、決して彼女になど引けをとらないと思い込んでいるが、実際こうして二人で並んでいると、何故かいつも決まって声を掛けられるのはセイラームの方だったりする。おまけに、セイラームは少し世間知らずなところがあるというか、一見しっかりしているように見えてどこか抜けたところがあり、今だってどう考えてもナンパまがいの誘い(そんなものを学校の中でやるなとまんの子は言いたい)を受けているにも関わらず、まるで気付いた素振りもなく惚けた様子でいるので、結局思わず横から口を出した。こういった経験も今に始まったことではなく、兄譲りのツッコミ気質を生来受け継いだまんの子は、そんなセイラームをつい放っておけないと感じてしまうのだった。
そして、そんな彼女の視線の先には、いつもその兄の姿があった。最初のうちは随分と仲の良さそうな兄妹だなあと思っただけであったが(自分のところとは大違いだ)そのうちにどうやら、その視線に込められている感情のうちのいくらかは、決してそればかりではないらしいことに、まんの子は気がついてしまった。もっとも、そのことが分かってしまうくらい、いつしか自分もセイラームのことを見ていたのだということは、彼女自身まだ気付いてはいないけれど。
その当のルドセブはといえば、これまた彼自身の視線はいつも別の人物に向けられていた。実際本人が「憧れている」と言って憚らず、その制服の着崩し方までも真似をするほど焦がれているという人物のことを、まんの子はもちろん知っていた。他ならぬ彼女自身の兄もまた、彼によって人生を大きく変えられた者の一人であるからだ。
(全く、どいつもこいつも…)
どうしたって、揃いも揃って自分の廻りにいる者は皆、あの男に夢中になっているのだろうか。
途端不機嫌そうに顔を歪めるまんの子に気付いたセイラームが「どうしたの?」と尋ねても、まんの子は何でもないと絶対に最後までその口を割ろうとはしなかった。


シスター×シスター
(まんの子とセイラーム/20110821)



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