ずっと、持て余しているような状態だった。
無論、周囲の大人たちの中には、自分など到底敵わないくらい強い者もいた。ただ、それでも花は、彼らに仕事の片手間に適当にあしらわれるくらいでは全然満足など出来なかった。自分だって、早く、もっと、シャーマンとして戦いたい。日増しにそんな思いが強くなってゆき、不満は募る一方だった。
そんな矢先のことだった。彼女が花の目の前に現れたのは。
「あたしに勝ったらケッコンしてあげる」
母と同じアンナという名の少女は、出会いがしらにいきなりそんなことを宣言した。そして彼女は、その名に負けないほどの力を持っていた。正直、女だからと最初は少々ナメてかかったことは認めよう。だがしかし、それにしてもあの強さは何だ。どうやら花よりは多少年は上のようだが、それでも彼女はまだ、周囲の大人たちとは違い、自分と然程変わらぬ少女であるはずだ。
にも関わらず、花は彼女に全く歯が立たなかった。ここまで完膚無きまでに叩きのめされたのは初めてのことだった。しかも、年端もいかぬ女の子に。
それから、花は自分は父とは違い、断じて惚れっぽいわけではないと思い込んでいた。むしろ花自身は、年頃の反抗心も手伝ってか最近ではあくまでも硬派を貫こうとしているフシすらある。実際、花はまだ別に色恋沙汰にはさして興味を持てなかった。そんなことよりも、この力を持てあますあまり日に日に溜まっていく鬱憤を、どうやって晴らすかの方がよほど重要だった。
そのはず、だったのに。
やはり、血というものは争えないというべきか。のちにルドセブから聞いたところによると、どうやらこれは父のみならず、その更に父親である(そして現在のルドセブの持ち霊でもある)幹久からも脈々と受け継がれていたようだ。花殿は意外とヒトメボレ、だなんて。どこかの猫又を思い出させるようなことを口にしてくる持ち霊の阿弥陀丸にいつものように八つ当たりしながら、花はこの先ますますひどくなっていく、この悶々とした気持ちをいつまでも抱え続けていかなければいけないのを、このときはまだ知る由もない。
そんな花を、当のアンナが余裕のある態度で、不適に微笑みながら見下している。
「まだまだ青いわね」
そのように言われても、初めての経験に今の花には何も返すことなど出来なかった。ぐっとそちらを睨みつける花を、アンナが愉快そうに見ている。こいつ、今に見てろよ…。
今はまだ一枚も二枚も上の相手に、花は胸の内で密かに宣戦布告した。


若葉
(花とアンナ/20120108)



inserted by FC2 system