先ほどから目の前で飽きもせず追いかけっこを繰り返している自分の主と同業者を眺めながら、佐助は今日何度目かの溜息を吐いた。
片や突然苦手呼ばわりされて一体何故だと詰め寄るかすがに対し、それだけは言えないと頑なに逃げ続ける幸村の様子は、本人たちは至って真剣そのものなのであろうが傍から見ていると滑稽でならない。まあ、佐助からすれば幸村が彼女を苦手とする理由はなんとなく想像はつくものの、かすがにすれば全く予想もつかないのだろう。このまま放っておいても恐らくいつまでたっても事態の収拾がつかないであろうことを察し「おーい…」と、佐助がもうそろそろ頃合かとばかりに二人へ口を挟もうとしたときだった。
不意に背後に感じた気配に振り返ると、そこにはかすがの主である謙信が自分と同じようにそんな二人の様子を遠巻きに見つめていた。そこで佐助は反射的に身構えてしまうが、どうやら軍神の方は今は彼らに手を出すつもりは全く無いらしい。拍子抜けしてしまった様子の自分とは対照的に、謙信はそんな佐助と目が合うなりなぜか微笑んでみせた。ますます困惑するしかない佐助を余所に、謙信は相変わらず目の前で繰り広げられる自分の忍と敵将のやり取りを何故か優しく見守りながら、ふと「奇遇ですね…」と呟いた。
え、と佐助が声を上げるのと同時に、謙信はやはり穏やかな表情のまま
「わたくしも、実は苦手なのですよ」
そう言って、自分の方を見つめながら尚も笑みを絶やそうとしない。「………ええっと」それってもしやと口を滑らせた刹那、たまりかねた幸村からの助けてくれ!の悲鳴に思わず佐助がそちらを振り返ると、必死の形相でこちらへ逃げてくる主の後ろを同じく懸命に追うかすがの姿があった。同じくそんな二人を見つめながら、微笑ましい光景ですねなどと肩を並べて口にした謙信を、佐助は今度こそ戦々恐々と感じずにはいられないのだった。


白に染めろ
(真田主従と上杉主従/20140330)



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